不動産売却の仲介を不動産会社に正式に依頼する場合は、「媒介契約」というものを締結します。これは、売主に代わって不動産の売却を成立させるために不動産会社が活動するという契約です。不動産を売却したい人が、ご自身で購入希望者を探したり、すべてのやり取りを円滑に進めたりすることは難しいため、不動産会社へ仲介を依頼することが一般的です。
宅地建物取引業法によって、不動産会社が不動産売却を仲介するには、媒介契約を締結する義務があります。そのため、不動産の売却を不動産会社に依頼すると、必ず媒介契約を交わさなければなりません。
媒介契約には、「専属専任媒介契約」、「専任媒介契約」、「一般媒介契約」の3種類があります。種類によって特徴が異なり、媒介契約の種類を不動産会社が売主に強制することはできません。媒介契約は、売主自身がそれぞれの契約のメリット・デメリットなどを把握し、どのように売却活動を進めていきたいかなどを踏まえて選択すると良いでしょう。
媒介契約は、(1)不動産会社との契約が1社に限られるのか (2)不動産流通機構(レインズ)に登録する義務があるのか (3)売主が自分で見つけた購入希望者と取引ができるのか…の要素で3つに分類できます。
※レインズ…
不動産取引の利便性を高めるために不動産情報を運営・管理している、国土交通省が指定した不動産流通標準情報システム。「Real Estate Information Network System」の頭文字を取って、REINS(レインズ)と呼ばれる。宅地建物取引業法に基づき、不動産情報を集約した上で、より多くの不動産会社に物件情報を提供し、最適な買主を探すことを目的としている。なお、不動産会社しか閲覧することはできない。
専任媒介契約と同様に、売買の仲介を1社の不動産会社にのみ依頼する媒介契約です。基本的な内容は専任媒介契約と同じで、より契約内容を厳しくしたものというイメージで、媒介契約を締結した翌日から5日以内(休業日は含まない)にレインズに登録しなければなりません。
また、不動産会社から売主に対しての販売状況の報告義務も、1週間に1回以上の割合になるため、販売状況をこまめに知りたいという売主にはメリットが大きいと言えます。したがって、初めて不動産のお取引をされる方も安心できるでしょう。
不動産会社は、他社に成約をされてしまう心配がありませんし、契約期間内に自社で購入希望者を見つければ、売主・買主の両方から仲介手数料が受け取れるので、他の媒介契約よりも積極的に販売活動に尽力してくれる傾向があります。
売主のデメリットとしては、売主自身で見つけてきた購入希望者についても、依頼した不動産会社を介さないと売買できないことが挙げられるでしょう。専属専任契約を結んだ不動産会社には、仲介手数料を支払う必要があります。
売買の仲介を1社の不動産会社にのみ依頼する媒介契約です。売主が複数の不動産会社に仲介を依頼することは、契約で禁じられています。
不動産会社は、専任媒介契約を締結した翌日から7日以内(休業日は含まない)にレインズに登録しなければいけません。レインズに登録することで、購入検討者の目にとまる可能性を高められるため、早期成約が期待できるというわけです。
さらに、専任媒介契約の場合、不動産会社は売主に対して2週間に1回以上の割合で販売状況の報告義務があるため、売主は販売状況がわかりやすいことがメリットです。
不動産会社が自社で購入希望者を見つけた場合には、売主・買主の両方から仲介手数料が受け取れるほか、他の不動産会社が購入希望者を見つけた場合でも、売主から仲介手数料が受け取れるため、一般媒介契約よりも積極的に売却活動をしてくれる傾向があります。
また、売主自身が購入希望者を見つけた場合は、依頼した不動産会社を介さずに売買契約を結ぶことも認められているので、好条件の買主を探すことができる媒介契約だと言えるでしょう。
売主のデメリットとしては、他社との競争がないため、依頼した不動産会社に営業力や販売力、熱心さがないと、販売期間が長期化する場合もあります。
複数の不動産会社に仲介を依頼できる媒介契約です。不動産売却の窓口を増やすことで、早期成約できる可能性を高めます。
また、売主自身が購入希望者を見つけて売買契約を結ぶことも可能なので、制限が少なく、比較的自由に売却活動ができます。
一般媒介契約には、売主が同時に依頼した複数の不動産会社を明らかにする「明示型」と、他にどの不動産会社に依頼したのかを明らかにしない「非明示型」の2種類があります。
明示型のメリットとしては、不動産会社間の競争心を高めて、売却活動を活性化できることが挙げられます。一方で、非明示型のメリットとしては、売主がそれぞれの不動産会社に販売手法や営業のターゲットなどを細かく指示して、不動産会社同士が競合しないようにコントロールできることが考えられます。
明示型・非明示型のどちらを選んだとしても、売却が成立した際には、仲介をした不動産会社を明らかにして、依頼した会社に通知しなければなりません。
一般媒介契約のデメリットとしては、不動産会社から売主への販売状況の報告義務や、レインズへの登録義務がないため、実際の販売状況がわかりにくいことでしょう。
また、売主がどの不動産会社と売買契約を結ぶかわからないので、不動産会社の売却活動が抑え気味になってしまうケースも考えられます。
さらに、売主のもとに複数の不動産会社から連絡が入るので、室内見学のスケジュール調整など煩わしい雑務が発生するかもしれません。
不動産売買の仲介では、売買契約が成立して初めて不動産会社の仲介手数料の請求権が発生します。媒介契約の種類によって、仲介手数料が変わることはありません。
宅地建物取引業法により、不動産会社が受け取ることのできる仲介手数料には上限額が定められています。また、仲介手数料は消費税の課税対象なので、別途消費税がかかります。
売買価格が400万円を超える物件については、以下の計算式で仲介手数料の上限額を速算できます。
【売買価格×3%+6万円+消費税】
立地条件や性質・状態など、複数の要素を加味して不動産の価値を把握し、反響が多く売りやすい物件だと考えられるなら、一般媒介契約が向いています。問題がなく売却しやすい物件の場合は、売却活動にこだわらなくても購入希望者が見つかることが多いため、自由度を残しておくほうが賢明です。
しかも、複数の不動産会社が競い合って売却活動を行うため、好条件での成約につながる可能性も高くなるでしょう。
一般的に反響が多い物件の要素としては、交通の便がいい、築浅である、日当たりや見晴らしがいい、間取りが使いやすい…などといったことが挙げられます。これらに当てはまる部分が多いほど、すぐに買い手が見つかる可能性が高いので、一般媒介契約が向いていると言えます。
また、ご自身で積極的に買主を探したい方や、売却先の見当がついている方も一般媒介契約がおすすめでしょう。
一般的に人気の物件といえそうにない場合は、そもそも購入希望者が少なく、一般媒介契約では不動産会社が積極的に売却活動を行わない可能性があるので、専任媒介契約、または専属専任媒介契約を結び、不動産会社の営業力や販売力で物件を売却してもらう傾向があるようです。
不動産会社には、それぞれ得意な物件の分野があります。得意分野については、売却活動のノウハウを持っていますし、買主候補を多く抱えている可能性も高いので、売却したい不動産を得意とする不動産会社を選び、専任媒介契約か専属専任媒介契約を結ぶと良いでしょう。
また、忙しかったり、ノウハウがわからなかったりして、売却活動に不動産会社のサポートが必要だと感じる方も、専任媒介契約か専属専任媒介契約で、不動産会社に売却活動を任せるのも一つの手段です。
一般媒介契約の契約期間に法令上の制限はありませんが、行政の指導では最長3カ月以内となっています。また、専任媒介契約と専属専任媒介契約の有効期間も最長3カ月以内と定められています。
同じ物件でも、媒介契約の種類によって、売れるまでのスピードや条件が違いますし、3カ月が経過しても売却できない可能性もあります。売れないまま契約期間が終了してしまったら、不動産会社や媒介契約の種類を変えてみるのもおすすめです。
窓口を増やすために専任媒介契約から一般媒介契約に変えたり、最初は一般媒介契約でいろいろな不動産会社に依頼して、その後自分に合った不動産会社で専任媒介契約や専属専任媒介契約を結んだり…と、状況に合わせた媒介契約を結び、スムーズな不動産売却を実現させましょう。